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樹脂、ゴムのSSカーブはこうやって解釈する

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ポリマー材料の機械特性を評価するときは必ずと入ってもいいほど、引張試験を行います。ダンベル試験片や短冊状サンプルを一定速度で伸張し、ひずみと応力の関係を調べます。

ひずみと応力のグラフをS-Sカーブと言います。S-Sというのは、Strain(ひずみ)とStress(応力)の頭文字からきています。金属材料とは異なり、樹脂材料のS-Sカーブはクネクネした曲線を描きます。

どうしてクネクネした形状になるのか?S-Sカーブからどんなことが読み取れるのか?

ここでは樹脂材料のS-Sカーブについて、初心者にも分かるようにまとめてみたいと思います。

S-Sカーブを順に追ってみよう

一般的な樹脂材料のS-Sカーブはこのようになります。

S-Sカーブの立ち上がり

原点から10%程度までは、S-Sカーブは比較的直線状に立ち上がっていきます。

金属材料と同様、ここは弾性変形をしている領域(弾性領域)です。この領域であれば応力を解放するとひずみが0%になり、元の形状に戻ります。

ひずみが0%のとき、樹脂の分子鎖は伸びきっているわけではなく、クネクネと折れ曲がった状態です。

姿勢でいうと、力を抜いて「猫背」になっている状態です。体育の授業でいうと、「やすめ」の状態です。これらを引っ張ると「背筋ピーン」になり、「気を付け!」になりますよね?そして、引っ張りを解除すると、元の「猫背」「やすめ」に戻ります。

「猫背」→「背筋ピーン」の可逆的な変形が弾性領域ということになります。

当然ながら、硬いもの(高弾性率のもの)ほどS-Sカーブの立ち上がりの傾きは大きくなります。

降伏点を迎える

10%付近に到達すると、S-Sカーブはピークを迎えたあとに下り坂になります。

このピークを降伏点と呼び、降伏点におけるひずみを降伏ひずみ、応力を降伏応力と言います。降伏点では、1本1本の分子鎖が「背筋ピーン」状態になっていて、これ以上の伸びしろはありません。

そうなると、今度は分子鎖同士の間がずるずると滑り始めます。”分子間力”で引き合っていた分子鎖間がこらえきれず応力に負けて、せん断方向にずれるためです。

樹脂が、「ああもう無理っ!」って叫んで敗北宣言をするのが降伏点です。

分子鎖間が一旦滑りはじめると、極限まで「背筋ピーン」を食らっていた分子鎖1本1本が少し緩み、S-Sカーブは少しだけ下り坂になります。分子鎖間の滑りは不可逆的ですので、降伏点を越えてから引っ張りを解除しても、完全に元の形状には戻りません。

これが塑性変形です。降伏点より後の領域を塑性領域と呼びます。

なお、樹脂材料によっては明確な降伏点を示さないものもあります。その場合はどうやって降伏点を定義するか?

試験片を引っ張って、引っ張りを解除したときに、0.2%の永久ひずみが残るところ(0.2%耐力といいます)を降伏点とします。例えば、10%引っ張って除荷したら試料の寸法が元の寸法より0.2%伸びていた。その場合は降伏ひずみ=10%になります。

「なんや、降伏点でも0.2%ほど塑性変形してるやん!」と突っ込まれそうですが、その通りです。

厳密には、降伏点の少し前で塑性変形は始まります。なので、だいたい降伏点あたりで塑性変形が始まりますよ、と思っておくといいと思います。

ずるずると横ばいのグラフになる(ネッキング)

その後のS-Sカーブは、ずっと横ばいになります。

ずれるところまで分子鎖間の滑りが進行していきます。分子鎖間をずらす力=分子間力ですので、一定の応力を保ったまま、ひずみが大きくなっていきます。ダンベル試験片を引っ張る様子を見ると、ダンベルのくびれ部がどんどん伸びて白くなっていくのが分かります。

これをネッキングと言います。

やがて右肩上がりになり、最後に破断する

最後は右肩上がりになり、破断します。

分子鎖間がある程度のところまで滑っていくと、分子の絡まったところがぎゅっと固結び状態になり、ほどけにくくなります。あるいは、真っ直ぐ平行に配向した分子鎖同士が接近して密にパッキングし、分子鎖間に強い分子間力が生まれます。はたまた、結晶性樹脂の場合は、非晶部にて分子鎖の滑りがいくところまでいったことで、今度はいよいよ結晶部の分子鎖に揺さぶりがかかることになります。

このような理由から、樹脂材料をさらに引っ張るためには、さらに高い応力が必要となってくるため、S-Sカーブは右肩上がりで上昇し始めます。

やがて、分子鎖がちぎれたり、分子の絡まりが完全にほどけることで破断に至ります。

S-Sカーブの形状から、材料物性を議論する

降伏応力が高い材料は、へたりにくい

降伏応力が高いということは、塑性変形させるのに大きな力が必要だということになります。

したがって、降伏応力の高い材料はへたりにくい(永久ひずみが残りにくい)と言えます。

ネッキング時の応力が低い材料は、分子間力が弱い

分子間をずらす力=分子間力であることは上述の通りです。ネッキング時の応力は、分子鎖1本1本の背伸び状態を維持する力と、分子間をずらす力の和になります。

したがって、同じような分子構造の樹脂を比較した場合、ネッキング時の応力が低いものほど分子間力が弱いと言えます。

S-Sカーブで囲われた面積が大きいほど、摩耗しにくい

ひずみと応力(厳密に言うと、変位と力)の積は、樹脂材料を引っ張るために要したエネルギーになります。

力[N] × 距離 [m] = エネルギー [N・m = J] であることを思い出せば分かるかと思います。

ひずみと応力の積とは、S-Sカーブが描く面積そのものです。

摩耗とは、樹脂材料の表面が細かく引きちぎられ、すり減っていく現象です。樹脂材料を引きちぎるためには”破断”させる必要があるため、S-Sカーブの面積分のエネルギーを与える必要があります。したがって、S-Sカーブの面積が大きいほど摩耗しにくいと言えます。

ただし、これは樹脂材料にかかる擦れの力が同じ場合に言える話です。樹脂材料によっては、同じように擦られても材料自身にさほど力が加わらないものもあります。表面の摩擦係数が小さいフッ素樹脂やポリエチレン、摩耗係数を下げる添加剤を含む樹脂材料などです。

こういった樹脂材料は、擦れの力があまりかからないため、S-Sカーブの面積が小さくてもさほど摩耗しません。

その他、摩耗のときには樹脂材料に熱がかかりますので、単純に常温で測定したS-Sカーブだけで議論すると考察を誤ることになります。S-Sカーブの面積が大きい = 摩耗しにくい、はあくまでも傾向です。

摩擦、摩耗についてはこちらにまとめています。

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