有機材料を解説する

【初心者にもわかる】樹脂・ゴムの耐摩耗性、摩擦を改善するための対策

材料開発をする上で「摩擦」や「摩耗」はよく出てくるキーワードです。

滑り性(摺動性)を付与したい場合、または耐摩耗性を改善したい場合に、摩擦・摩耗に関する理屈について知っておくと対策が打ちやすくなります。

以下の内容を読めば非常に参考になると思いますので、是非ご一読ください。

摩擦の法則とは?

摩擦の法則といえばこちらの式です。

摩擦力=摩擦係数(定数)×荷重

摩擦力は荷重に比例し、接触面積や滑り速度には依存しないというものです。これ、実は物理法則ではなく経験則です。アモントンの法則という名前もついています。

摩擦係数には、静摩擦係数と動摩擦係数の2種類があります。静摩擦係数は、止まっているものを動かして滑らせ始めるための間、動摩擦係数は、滑らせ続ける間の摩擦係数です。グラフで示すとこんな感じです。通常は、静摩擦係数≧動摩擦係数となります。動かし始めるときの方が、動かし続けるときよりも力が要るということです。

摩擦のメカニズムとは?

摩擦は様々な物理現象が複雑に絡んでいるため、その概念やメカニズムについて十分に解明されているわけではありませんが、現代摩擦理論では以下のように考えられています。

どんなに平滑な物質でも、ミクロにみると凹凸があります。したがって、本当の接触面積というのは、見かけの接触面積に比べてはるかに小さくなります。実際に接触している面積は、見かけの接触面積の約0.1~1%程度であると言われています。ということは、実際に接触しているところ(真実接触点)には極めて高い面圧がかかっていることになります。

さらに、物体の表面というのは基本的に不安定なため、相手材と接触するとくっついて安定化しようとする性質があります。この力は、相手材との相容性が高いほど強くなります。似たもの同士はよくなじむ、というやつです。

表面の不安定さについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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「高い面圧」「高活性な表面」により、真実接触点では相手材と強固にくっつく性質があります。そして、真実接触点でのくっつきを引き剥がす力が「摩擦力」です。

ちなみに、真実接触点でのくっつきのことを「凝着」と呼びます。

摩擦の小さい樹脂は?

ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、フッ素樹脂(PTFE)、ポリエチレン(PE)は摩擦係数が小さく、摺動材料によく使われています。

このうち、PTFEとPEは最表層が相手材に移着、配向し、自身との間でツルツル滑ってくれるいうものです。したがって、1回滑らせたときよりも2回目以降は摩擦係数が小さくなります。また、2回目の測定でも、滑らせる向きを変えると1回目と同じ測定値となります。

摩耗の法則とは?

摩耗の経験則はこちらの式になります。

摩耗体積量=比摩耗量(定数)×荷重×滑り距離

摩耗量は、荷重と滑り距離に比例するというものです。比摩耗量が材料固有の値であり、摩耗のしやすさを表すパラメータです。

摩耗には大きく4つのモードがある。

摩耗には大きく4つのモードがあります。

種類 モード
①凝着摩耗 真実接触点でのくっつきよりも材料の強度が弱く、材料が引きちぎられるモード
②アブレシブ摩耗 相手材の凸形状で引っかかれ、掘り起こされるモード
③疲労摩耗 材料が疲労劣化し、引きちぎられるモード
④化学摩耗
(腐食摩耗、酸化摩耗)
機械的作用と化学的作用が複合して摩耗が進行するモード

④は少々分かりにくいため補足します。腐食摩耗とは金属で起こるモードで、表面に脆い酸化層ができては削られ、新たに酸化層ができては削られるの繰り返しにより摩耗するものです。酸化摩耗とは、摩耗面が酸化劣化して削れやすくなるモードです。

酸化摩耗モードでは、擦れて機械的変形を受けることで劣化が促進されるようなこと(メカノケミカル反応)が起こります。分子鎖が伸ばされたり曲げられる結果、酸化劣化が進みやすくなり、より摩耗が進行するというサイクルです。

たいていの場合、全てのモードが同時に起こっています。摩耗対策を考えるときは、どのモードがメインであるかということを見つけることが重要です。

例えば、凝着摩耗がメインであれば、真実接触面でのくっつきを阻害するために油をさすことが有効になります。アブレシブ摩耗がメインであれば、掘り起こされないように表面を硬くすることが有効になります。

樹脂、ゴムの摩耗モード

金属と異なり、樹脂材料は真実接触点でのくっつきが比較的弱いため、凝集摩耗(①)のモードは起こりにくいです。したがって、起こりやすいモードは②~④です。

比摩耗量が10-5以上のものは非常に摩耗しやすいです。交換部品として使えるレベルは、10-4~10^-5。製品として使えるレベルは10^-7

10-9オーダーの耐摩耗性が要求されたら油等の潤滑材を使うしかありません。そもそも、10-9オーダーの材料は存在しないからです。

樹脂、ゴムの耐摩耗性を高める方法(擦れる力が強い場合)

耐摩耗性を高める方策は、擦れる力の大小で変わります。まずは、擦れる力が強い場合を考えます。擦れる力が強い場合、②アブレシブ摩耗がメインになるかと思います。アブレシブ摩耗の場合、摩耗の式はこのように表現されます。

摩耗体積量=比摩耗量(定数)×荷重×滑り距離
=(定数×(摩擦係数/(硬さ×引張破断強度×引張破断伸び))×荷重×滑り距離

摩擦係数が小さいほど、硬いほど、破断しにくいほど摩耗しにくいということです。引張破断強度×引張破断伸びというのはまさにS-Sカーブの面積そのもので、破断エネルギーとも呼ばれます。この値が大きいほど、破断しにくいことになります。

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熱可塑性樹脂の場合

熱可塑性樹脂の場合、一般的には、フィラーを配合して硬さや強度を増すことで耐摩耗性を向上させます。

例えばPTFEの場合、摩擦係数は小さいものの比摩耗量が10-4オーダーと大きく非常に摩耗しやすいため、フィラーを入れたものが一般に使われます。フライパンのフッ素コーティングなんかがそうですね。

熱硬化性樹脂の場合

熱硬化性樹脂の場合は、固体潤滑剤を添加して摩擦係数を下げることで耐摩耗性を改善することが多いです。一般的に、固体潤滑剤を添加すると強度が低下します。熱硬化性樹脂だと、熱可塑性樹脂に比べて固体潤滑剤の添加による強度低下が比較的小さいです。これが、固体潤滑剤がよく使われる理由です。固体潤滑剤には二硫化モリブデン、PTFE、グラファイトといったものがあります。

ゴムの場合

一般的には、カーボンブラックやシリカを配合して硬さや強度を増すことで耐摩耗性を向上させます。

相手材の表面粗さも影響する

樹脂材料の摩擦、摩耗は相手材の表面粗さに依存します。

例えば、PTFEなどの多くの樹脂材料では、相手材の表面粗さが小さいと比摩耗量、摩擦係数ともに大きくなります。なぜなら、接触面積が増えるからです。一方、相手材の表面粗さが大きくても比摩耗量、摩擦係数ともに大きくなります。なぜなら、アブレシブ摩耗のモードになるからです。相手材の凸部で引っかかれて削れたり、滑り止めを食らうということです。

ですので、相手材の表面粗さには、樹脂材料の比摩耗量、摩擦係数が極小値となる最適値が存在します。これは材料の種類によってまちまちですが、最大高さRzでいうとだいたい1.0、算術平均粗さRaでいうと0.2付近になることが多いようです。ちなみにRzというのは一番高い凸と一番低い凹の高低差、Raは凹凸の高低差の平均を表現した指標で、レーザー顕微鏡などで実測できます。

一方、ポリエチレンの場合はちょっと特殊です。相手材の表面粗さが小さいと比摩耗量が小さくなりますが、摩擦係数は上がります。平滑な床の上で靴がキュッキュッと鳴って滑っているイメージですね。

PV値に注意しよう ~摩擦熱の影響~

樹脂材料は、荷重が高すぎたり摩耗速度が早すぎたりすると、摩擦熱によって接触界面が溶融し、極端に摩耗しやすくなります。

つまり、荷重(Pressure)と摩耗速度(Viscocity)の積であるPV値があるしきい値を超えると、比摩耗量が変化して摩耗が極端にひどくなります。PV値とは、摩擦熱量の目安のようなものです。

比摩耗量が変化するPV値を限界PV値といいます。これを越える環境で使うときは、本来の耐摩耗性を保証できませんよ~というメッセージです。摺動用プラスチックのカタログには必ず限界PV値が記載されています。

樹脂、ゴムの耐摩耗性を高める方法(擦れる力が弱い場合)

擦れる力が弱い場合、③疲労摩耗や④化学摩耗(酸化摩耗)がメインになるかと思います。擦れる力が弱いと、前述のアブレシブ摩耗のように大きな変形は受けず、小さな変形を繰り返し与えられることになります。

③疲労摩耗

③疲労摩耗は、変形により応力が集中する箇所があると起こりやすいです。例えば、フィラーの凝集塊が存在したり、架橋の疎密がある場合、樹脂・ゴムとフィラー間の相互作用が弱い場合、局所的に分子鎖の動きが束縛されている場合などです。微小ボイドや異物といった物理的な欠陥がある場合もそうです。こういった箇所に応力が集中してボイドが生成、進展していくことで材料が破断し、摩耗が進行します。

よって、フィラーや架橋剤の分散を良くしたり、フィラーの表面処理をして樹脂・ゴムとの相互作用を高めたり、分子鎖の動きをスムーズにするために滑剤や可塑剤を入れることが対策となります。もちろん、ボイドや異物の混入をなくすことも重要ですよ。

少しマニアックですが、ゴムの場合はストラクチャーの小さいカーボンブラックを用いて分子鎖の束縛を少なくすることも有効です。

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④化学摩耗(酸化摩耗)

④化学摩耗(酸化摩耗)の場合は、酸化劣化を抑制することが対策となります。例えば、酸化防止剤を添加する、酸化劣化しにくい樹脂・ゴムにする、というものです。

詳細なメカニズムは分かりませんが、擦れるという物理現象において酸素の影響を受けやすいものと受けにくいものというのがあります。

例えば、ブタジエンゴム(BR)は耐摩耗性に優れるゴムとして知られていますが、これは擦れるときに酸化劣化が進みにくいためです。一方、天然ゴム(NR)はBRに比べると酸素の影響を受けて酸化劣化しやすく、摩耗が進みやすいです。詳細はこちらの文献が参考になります。

その他の注意点:水分の影響

吸湿下では、樹脂が水分を含んで摩耗しやすくなりますので注意が必要です。特に吸水率の高い樹脂は要注意です。また、無機フィラー、とくにガラス繊維を含むコンパウンドも要注意です。フィラー表面に水分が吸着してゲルっぽくなり、摩耗しやすくなるからです。