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樹脂・ゴムの分子量の大小、分子量分布の広い/狭いで特性を改善する

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樹脂コンパウンドの材料特性を改善する時、ついついベースポリマーの種類や添加剤を振ることに目が移ってしまいがちですが、ベースポリマーの分子量分布を変えることで解決することが多々あります。

ポリマーの分子量分布が材料物性を左右する、という考え方は、ある程度経験を積んだ有機材料屋にしか出てこない発想だと思います。私も初めはそんな発想がありませんでしたので・・・。

事例をいくつか挙げてみたいと思います。

樹脂の分子量、分子量分布の変更で改善する例:多量のフィラーを充填したいとき

熱伝導率を上げたり、電気伝導性を上げるためにフィラーを多量に充填することってあると思います。

そんなとき、分子量の大きいベースポリマーを使うとよいです。フィラーをたくさん入れてもサクく(脆く)なりにくいです。

例えばゴムだと、普通のEPDMよりも油展EPDMを使うといいです。油展EPDMとは、高分子量のEPDM+パラフィン系のプロセスオイルです。

EPDMを高分子量化すると粘度が高くなりすぎて加工できないため、軟化剤としてのプロセスオイルが入っています。プロセスオイルは合成の過程でブレンドされています。

厳密には、高分子量(EPDM)と超低分子量(プロセスオイル)の二山分布にする、ですね。前者でフィラー保持性を上げ、後者で溶融流動性を確保する、という考えです。ポリマーだと、例えば押出グレードのポリエチレン+ポリエチレンワックスの組合せになると思います。

フィラー高充填配合では逆に低粘度のベースポリマーを選択しがちですが、大概うまくいきません。

ベースポリマーの分子量が高いと分子絡み合いが増えるため、力がかかってもほどけにくくなります。よって、フィラーをたくさん入れてもサクくなりにくいんだと思います。

引張強さを上げたいとき

高分子量のベースポリマーを使います。

分子絡み合いが増えるため、破断までの時間が稼げます。S-Sカーブが右上方向に延長されるイメージです。

樹脂、ゴムのSSカーブはこうやって解釈するポリマー材料の機械特性を評価するときは必ずと入ってもいいほど、引張試験を行います。ダンベル試験片や短冊状サンプルを一定速度で伸張し、ひず...

成形性を良くしたいとき

射出成形や押出成形で、成形しやすいコンパウンドというのは、剪断がかかっているときは低粘度で、剪断がかかっていないときは高粘度であるものです。成形機の中を流動するときはスムーズに流れてくれて、金型に到達したり、ダイスから出てきた後はダレずに止まってほしいからです。

こういう溶融挙動を発現させるには、分子量分布を広くするといいです。分子量分布のうち分子量の高いやつが、止まっているときの粘度を高くしてくれます。そして、分子量の低いやつが、それ自身の低粘度性と、高分子量のやつ同士を滑らせて流動しやすくする潤滑剤的な役割により、動いているときの粘度を低くしてくれます。

インキ業界だとチクソ性と言った方が分かりやすいかもしれません。

余談ですが、フィラーを入れることによっても成形性を改善できます。フィラーが高分子量ポリマーの役目を担っていると考えれば分かりやすいかと思います。

ソルベントクラックやクレージングを低減したいとき

分子量の高いベースポリマーを選択します。

ソルベントクラックやクレージングというのは、材料にかかっていた応力が局所的に解放されて割れる現象です。局所的に、分子絡み合いが一気にほどけることで割れに至ります。

厳密には、完全に隙間ができる場合と、ほどける途上の状態(糸をひいたようなフィブリルが残っている状態)の2通りがあります。前者がクラック、後者がクレーズです。クレーズはクラックの前駆体とも言われます。

分子量の高いベースポリマーを使うと、分子絡み合いが増えるため、分子がほどけにくくクラックやクレーズになりにくくなります。よって、射出成形グレードのポリマーよりも押出成形グレードを使う方が良くなります。

樹脂材料のガラス転移温度、融点、連続使用温度で耐熱性を説明する方法樹脂材料を取り扱う場合、必ず出てくるのが「耐熱性」です。 ベースポリマーの選択や添加剤の構成を決めるとき、まず考えるのが耐熱性だと思い...