有機材料を解説する

【初心者にも分かる】樹脂材料のガラス転移温度、融点、連続使用温度で耐熱性を説明する方法

樹脂材料を取り扱う場合、必ず出てくるのが「耐熱性」です。

ベースポリマーの選択や添加剤の構成を決めるとき、まず考えるのが耐熱性だと思います。耐熱性がさほど必要ない製品であれば汎用プラスチックを使いますし、150℃以上の高い耐熱性が要求される場合はエンジニアリングプラスチック(エンプラ)の中から選択します。さらに高温で使用する場合は、スーパーエンプラの中から選択します。

必要に応じて、酸化防止剤などの添加剤を配合します。

ところで、「耐熱性」って何でしょうか?

一概に「耐熱性」と言っても、溶けたらダメなのか、劣化してボロボロになるのがダメなのか、いろいろあります。「耐熱性」の指標もさまざまです。

「耐熱性」について十分な理解がないと、正しい材料開発、材料選定はできません。そこで、樹脂材料の技術者や、樹脂を取り扱う初心者の方々に役立つように「耐熱性」について解説してみました。

まずは、短期耐熱(耐熱軟化性)と長期耐熱(耐熱劣化性、耐熱老化性)の違いを押さえましょう。

短期耐熱(耐熱軟化性)とは?

耐熱軟化性とは、樹脂材料が軟らかくなって変形したり溶けてしまわないか?を気にするものです。

樹脂の物性の一つに、ガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)があります。非晶性樹脂だとTgのみ、結晶性樹脂だとTgとTmの両方を有します。温度がTgを超えるとポリマーの分子鎖がにょろにょろと活発に動き始めますので、力を加えると変形しやすくなります。

非晶性樹脂の場合、ポリマーの分子鎖が密にパッキングしている”結晶部”がありませんので、Tgを超えると樹脂全体が軟らかくなり、やがて溶融状態になります。

一方、結晶性樹脂の場合は、Tgを超えて”非晶部”の分子運動が活発化する一方、”結晶部”のポリマーはほとんど動きませんので、若干軟らかくはなりますが(弾性率が1ケタ程度下がる)、溶融状態にはなりません。Tmを超えると”結晶部”の密なパッキングが解けて、樹脂全体が軟らかくなります。

短期耐熱の指標:ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、荷重たわみ温度(熱変形温度)

材料に力が加わる場合

さて、ここからは使用環境で樹脂材料に力が加わるかどうかで分けて考えたいと思います。

高温下で樹脂材料に力がかかる場合、非晶性樹脂、結晶性樹脂ともにTgの大小が耐熱軟化性に効いてきます。

力がかかる場合の耐熱軟化性の指標に「荷重たわみ温度」というものがあります。「熱変形温度」と呼ぶ場合もあります。文字通り、樹脂の板に荷重をかけて、何℃で板がたわむかを見るものです。

なお、荷重たわみ温度には、弱めの荷重(0.45MPa)、強めの荷重(1.8MPa)の2パターンで測定したデータがあり、当然ながら1.8MPaの測定値の方が低めになります。

非晶性樹脂、結晶性樹脂によらず、荷重たわみ温度はおおよそTg近辺になると思います。

(一例)
非晶性樹脂
・PC(ポリカーボネート)・・・Tg=145℃、荷重たわみ温度(1.8MPa)=約140℃
・PES(ポリエーテルスルホン)・・・Tg=225℃、荷重たわみ温度(1.8MPa)=約200℃

結晶性樹脂
・PPS(ポリフェニレンサルファイド)・・・Tg=93℃、Tm=278℃、荷重たわみ温度(1.8MPa)=約100℃
・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・・・Tg=143℃、Tm=343℃、荷重たわみ温度(1.8MPa)=約160℃

材料に力がほとんど加わらない場合

樹脂材料に力がほとんど加わらず、静置状態で使われるケースだとどうでしょうか?

非晶性樹脂はTg、結晶性樹脂はTmが耐熱軟化性に効いてきます。ある程度の弾性率を保持しておけばいいわけで、結晶性樹脂がTgを超えて1ケタ軟らかくなったところでなんら問題はありません。

ただし、Tgを超えると様々な物性(線膨張係数、誘電損失、比熱など)が変化するため、使用温度が結晶性樹脂のTm以下だからと言って安心するのは危険です。

短期耐熱を左右するその他の因子:フィラー、結晶化度

ガラス繊維などの補強フィラーを含むと、短期耐熱はよくなる

同じ樹脂でも、補強フィラーが入っている場合は耐熱軟化性が高くなります。

例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の荷重たわみ温度(荷重:1.8MPa)は105℃ですが、ガラス繊維で強化したPPSは260℃以上になります。

ガラス繊維により高い弾性率が維持されるため、当たり前と言えば当たり前ですが・・・。

結晶性樹脂は、結晶化度が高いほど短期耐熱がよくなる

また、結晶性樹脂は、結晶化度が高いほど耐熱軟化性が高くなります。

例えばPPSの結晶化度は最大で60%まで上がります。溶融成形したあとのPPSを急冷して結晶化度を低くしたものと、ゆっくり冷やしたり、後でアニール処理をして結晶化度を60%近くまで高めたものでは、荷重たわみ温度が変わってきます。

結晶化度とは、樹脂全体のうちの”結晶部”の割合です。”結晶部”が増えると、”非晶部”が減り、Tgを超えたあとに動ける分子鎖が少なくなります。

よって、Tgを越えても弾性率の下がりは小さく、耐熱軟化性が高くなります。

長期耐熱(耐熱劣化性、耐熱老化性)とは?

熱劣化とは、文字通り樹脂が劣化して諸物性が悪化していくことをいいます。樹脂の業界だと熱劣化、ゴムの業界だと熱老化と言うことが多いです。

熱により樹脂の化学結合がラジカル的に切れていくのが熱劣化の基本的なモードです。主鎖が切れていくと分子量が小さくなりネチャネチャした触感に変わっていきますし、結合切断部のラジカルが別の結合切断部のラジカルとくっついて架橋を作ると、硬くて脆い触感に変わっていきます。

実際には、熱軟化と熱硬化が同時に進みます。

熱軟化が優位な材料は「熱軟化」型、熱硬化が優位な材料は「熱硬化」型と言います。だいたいの材料は「熱硬化」型だと思います。

酸素雰囲気下では、樹脂の分子鎖に酸素が付加して生じるパーオキサイド(過酸化物)が新たなラジカルを連鎖的に作り出すいうサイクルになり、分子の切断と架橋が加速します。酸素が絡む劣化を酸化劣化と呼びます。

本来、安定な有機化合物を形成する化学結合は非常に強く多少の熱では切れませんが、大気中に酸素が存在するがために、過激なラジカルの多い環境に晒され、化学結合が切れやすくなってしまうのが実情です。

通常、熱劣化とは酸素劣化のことを言います。

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長期耐熱を簡便に比較する方法

耐熱劣化性を簡便に見積もれる方法が、TG-DTAを用いた重量減少温度の測定です。

室温から1,000℃くらいまで、一定の昇温速度(10℃/分 or 20℃/分)で加熱し、試料の重量の残存率を追跡します。重量の残存率が95%になるとき、すなわち5%の重量減少が見られるときの温度を5%重量減少温度(Td5)と呼びます。5%重量減少温度(Td5)を指標として長期耐熱性の善し悪しをざっくり比較できます。

比較する前提として、ベースポリマー以外の因子(フィラーの量など)が同等であることが必要になります。また、大半の製品は酸素が存在する大気中で使用すると思いますので、TG-DTA測定は空気下で行います。

耐熱劣化性をきちんと比較する方法

耐熱劣化性をきちんと比較するには、樹脂材料のサンプル片を恒温槽で長期加熱し、物性の変化を追跡する必要があります。

よくやるのが、樹脂やゴムのダンベル試験片を作って恒温槽内に吊して加熱し、所定の時間がきたら試験片を取り出し、引張強さや伸びを測定する方法です。恒温槽内の熱風の行き渡り方で試験片の熱履歴が変わるため、熱風の循環を妨げないよう注意が必要です。

したがって、恒温槽に試験片をぎゅうぎゅうに詰めるのはNGです。また、熱風の循環が弱い自然対流型の恒温槽はNGで、ファンで熱風を強制循環させる強制対流型の恒温槽を使うべきです。さらには、試験片自体を槽内で回転移動させて熱ムラを抑えたギヤオーブン、一定間隔で槽内をフレッシュな空気に置き換えて酸素欠乏を防ぐ恒温槽もあります。

ギヤオーブン+空気置換設定は、ゴムの熱老化試験を厳密に行う際に必要になります。

なお、「熱硬化」型の材料では、熱劣化に伴い引張強さ、伸びともに低下していきます。「熱軟化」型の材料では、熱劣化に伴い引張強さは低下、伸びは増大していく傾向になります。

長期耐熱の指標:長期連続使用温度

細かい配合ごとの耐熱劣化性は上述の方法で実際に試験してみないと比較できませんが、ポリマー種ごとの耐熱劣化性であれば、長期連続使用温度と呼ばれる指標でイメージを掴むことができます。

代表的な長期連続使用温度として、「UL温度インデックス」と「電気用品に使用される絶縁物の使用温度の上限値」があります。 インターネット上の情報を見ていると、これらを同じ長期連続使用温度だと混同していることが多々あります・・・。まあ仕方がないですね。

プレゼンや社内資料で耐熱性の話をする時に、これらの指標を引用すると便利です。

1)UL温度インデックス(RTI、相対温度指数)

こちらは、エンプラやスーパーエンプラを触ったことがある人にとってはなじみがある指標化と思います。RTI(Relative Thermal Index)や相対温度指数と呼ばれることもあります。

10万時間後に物性が半減する温度をUL温度インデックスとします。物性には電気的特性;絶縁破壊電圧、機械的特性;引張強さ、衝撃強度、の3つがあり、それぞれについてUL温度インデックスが取得されます。

樹脂のカタログや各種技術資料を読むと、どの物性に関するUL温度インデックスなのか明記されていないことが多いですが、基本的に3物性ともに似たような温度になりますので、あまり気にしなくて良いかと思います。代表的な樹脂(ニートレジン、ガラス繊維入りレジン)についてはインターネットで検索すれば出てくるかと思います。

2)電気用品に使用される絶縁物の使用温度の上限値

電気用品取締法の細則に示されているもので、4万時間後に物性が半減する温度を「上限値」としています。「上限値」にはその1、その2という二つの区分がありますが、その1を参照すればよいかと思います。

電気的特性;絶縁破壊電圧と、機械的特性;引張強さ、伸び、衝撃強度など、の各物性が4万時間後に半減する温度を出し、その中で一番低い温度を「上限値」としているようです。機械的特性の項目は、試料がフィルムなのか成形材料なのかで多少変わります。

こちらのURLに各材料の使用温度の上限値が載っていますので、参考にして下さい。

これらの指標を使って、大雑把な寿命予測ができる

耐熱性の話になると、「何℃までならもつんですか?」とよく聞かれます。

長期耐熱性に関する測定データを持ち合わせていない場合、「UL温度インデックス」や「電気用品に使用される絶縁物の使用温度の上限値」を使って大雑把ではありますが、寿命を予測することが可能です。

例えば、エポキシ樹脂の「電気用品に使用される絶縁物の使用温度の上限値」は120℃です。
 
したがって、120℃×4万時間(≒4.5年)で電気的特性、機械的特性が半減するということになります。

樹脂やゴムで良く成立する「10℃2倍則」で単純計算しますと、110℃で9年、100℃で18年、90℃で36年、・・・と見積もられます。

90℃だと何年もつんですか?と聞かれたら、「例えば絶縁性や機械特性が半分に下がるときを耐熱寿命とすると、一般的なエポキシ樹脂は120℃で4.5年になると言われています。10℃2倍則が成り立つと仮定すると、90℃で36年になります。ただし、あくまでも仮定の話ですので、今後評価していきます。」とかっこよく答えることができます。

実際の耐熱寿命は、実測データをもとに見積もるべきですので、あくまでもざっくりイメージであることには留意して下さい。

プレゼンの質問対策に便利かと思います。

最後に、こちらも材料開発、プレゼン対策に使えますので参考にして下さい。

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