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10°C2倍則(10°C半減則)は本当に成り立つのか?

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樹脂材料の寿命を予測する場面でよく出てくるのが「10℃2倍則」です。10℃上がれば劣化が2倍になるという経験則のことです。10℃半減則と呼ぶこともあります。

これって本当に成り立つのでしょうか?

10℃で何倍になるかは、活性化エネルギーEaで決まる

アレニウスの式から、寿命をTとすると

lnT = A + Ea/RT

A:定数
Ea:活性化エネルギー
R:気体定数
T:絶対温度

となります。寿命とは、ある物性値が〇〇まで下がるまでの期間(あるいは、ある物性値の低下率が〇〇%以上になるまでの期間)のことで、各自で定義するものです。

10℃で何倍になるかは、活性化エネルギーEaの値で決まります。

加速倍率

まずは、加速倍率について見ていきます。こちらの表をご覧下さい。

加速試験を行う温度をタテ方向に、活性化エネルギーの値をヨコ方向に並べています。「実環境温度」は左上に示しています。表中の数値が加速倍率です。

例えば、活性化エネルギーが100kJ/mol、加速試験の温度が100℃、実環境温度が25℃だとすると、加速倍率は3345倍になります。

実環境温度である25℃での劣化スピードが、100℃下では3345倍になるという意味です。25℃での100年分の劣化を、100℃での加速試験では100年÷3345≒0.03年≒11日で再現できるということです。

計算は簡単です。加速倍率 = exp(Ea/R*(1/T’-1/T)) の関係式から算出できます。T’は実環境の絶対温度(25℃なら273K)、Tは加速試験の絶対温度です。

10℃n倍則

加速倍率ではなく、10℃n倍則のnの値をまとめたのがこちらの表です。

例えば、活性化エネルギーが100kJ/mol、加速試験の温度が100℃、実環境温度が25℃だとn=3.0となります。10℃3倍則になるということです。

計算は簡単です。n^((加速試験の温度-実環境温度)/10) = 加速倍率 の関係式から算出できます。

樹脂やゴムの劣化反応の活性化エネルギーEaは?

活性化エネルギーEaは、材料や寿命の定義によって変わってきますので、実験でアレニウスプロットを引いて求めるのが最も確実です。一方、環境や材料の制約から、アレニウスプロットを引くのが難しい場合もあります。

例えば、材料のガラス転移温度が低いと加速試験の温度をあまり上げられないため、アレニウスプロットを引くのに十分なデータを取得するまでに多大な時間を要します。基本的に、ガラス転移温度を境に加速倍率がかわりますので、ガラス転移温度をまたいでの加速試験はNGなのです。

また、溶剤や薬液に浸漬して加速試験する場合は、その液体の沸点や分解温度より低い温度にしなければならないため、液体によっては加速試験の温度をあまり上げられず、データ取得完了までに多大な時間を要するケースもあります。

アレニウスプロットを引かずにざっくり寿命を見積もりたいということもあるでしょう。

その場合は、論文や文献に記載されている活性化エネルギーEaの値を自分の系に当てはめて、寿命を見積もります。これはあくまでも推測ですので、ご注意下さい。「活性化エネルギーがこの論文と同じ値だと仮定すると」という前提つきであることにご注意下さい。

例えば、こちらの文献によると、空気下での熱劣化の活性化エネルギー(kcal/mol)はPEで14.7、PPで13.6、PSで20.8、PA6で14.8、PCで34.6です。

こちらの文献によると、空気下での熱劣化の活性化エネルギー(kcal/mol)はEPRで28、IIRで36、CRで26です。

こちらの文献によると、空気下での熱劣化の活性化エネルギー(kcal/mol)はEPRで14~、他の高分子材料でも25~40となっています。

こちらの文献によると、空気下での熱劣化の活性化エネルギー(kcal/mol)はNRで21~22、SBRで20、NBRで22、CRで18となっています。

材料、文献によりまちまちですが、活性化エネルギーは約14kcal/mol以上であるということです。14kcal/molだとn=約2となり、10℃2倍則となります。これより活性化エネルギーが大きいと、nは2よりも大きくなり、10℃2倍則よりも大きくなります。

とりあえず10℃2倍則で見積もっておけば、より厳しい見方になると言えそうです。ですので、悪い方向にはいかないと思います。ただし、これはあくまでも化学的な劣化によるものであり、物理的な現象(劣化を引き起こす成分の拡散など)が律速の系ではまた別の話ですのでご注意下さい。

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参考:実環境温度が25℃以外の場合のデータ

実環境温度を25℃以外で考えるケースもあると思いますので、参考までに実環境温度が25℃以外の場合のデータも載せておきます。真夏の暑いとき、海外の熱帯地方を想定して実環境温度を35℃や40℃とする場合もあると思いますので。

実環境温度:20℃

加速倍率

10℃n倍則

実環境温度:30℃

加速倍率

10℃n倍則

実環境温度:35℃

加速倍率

10℃n倍則

実環境温度:40℃

加速倍率

10℃n倍則