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熱伝導率、熱拡散率、熱伝達率の意味と違い

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デバイスの設計をやるときによく出てくるのが、熱伝導率、熱拡散率、熱伝達率といった「熱」に関するパラメータです。わかっているようでわかっていないこの3パラメータの違いについて説明します。

熱伝導率とは

熱伝導率は、熱の移動のしやすさを表す物性です。

ものによって熱伝導率が違うことは感覚的に理解しているはずです。例えば、金属は樹脂よりも熱伝導率が高いです。樹脂の板に触れても特に何も感じませんが、金属の板に触れると指先がひんやりします。指先から金属へ熱が移動したためです。

熱伝導率の単位はW/m・Kです。分子がワット(W)、分母がメートル(m)×ケルビン(K)です。

Kが分子にあると誤解する人、mがミリだと誤解する人がたまにいるので要注意です。

エネルギーの単位がジュール(J)で、1秒あたりのエネルギーの単位がW(=J/s)です。したがって、分子にあるWとは、単位時間あたりに移動する熱エネルギーの量を意味します。

分母のmは、物体の厚みです。Kは、物体の表と裏の温度差です。

まとめると、熱伝導率とは、単位厚みあたり、単位温度差あたりの、熱エネルギーが移動する量だということが分かります。

熱伝導率に物体の厚みと表裏の温度差をかけ算すれば、移動する熱エネルギーの量(W)が分かります。

熱伝導率は材料によって決まる値です。

熱伝導率は金属だと高く、樹脂だと低いです。

金属の熱伝導率は数十〜数百W/m・Kもありますが、樹脂になると0.2W/m・Kくらいに留まります。空気だとさらに一桁低い0.02〜0.03W/m・Kくらいです。

熱拡散率とは

熱伝導率に似た物性です。熱伝導率とは次の式で紐付けられています。

熱伝導率[W/m・K]=熱拡散率[m2/s]×比熱[J/K・kg]×密度[kg/m3]

誤解を恐れずにいうと、熱拡散率は熱伝導率を出すためのパラメータであり、材料屋があまり気にする物性ではないです。

熱伝導率は直接測ることが難しいのですが、熱拡散率は測定が簡単です。

したがって、熱拡散率を実測したあとに、比熱、密度を掛け合わせて熱伝導率を求める方法が一般的です。

このように、熱拡散率を測定して熱伝導率に換算する方法を非定常法といいます。

※実は、熱伝導率を直接測る定常法と呼ばれるものもあります。ただし、あまりメジャーではありません。

非定常法の具体的は測定方法には、レーザーフラッシュ法や熱線法といった種類があります。

熱拡散率の意味合い

熱拡散率の単位はm2/sです。イメージしにくいとは思いますが、Fickの法則でいう拡散係数のようなものです。

Fickの法則は、単位時間に移動する量J = -D・(dC/dx) です。Dが拡散係数です。Cが濃度、xが厚みで、dC/dxが濃度勾配になります。

Fickの法則は、溶液に溶けている溶質の濃度について使われることが多いですが、ここでは”分子の振動の強弱”を濃度に置き換えて考えてみます。

ある物体があって、片面は温度が高くて分子の振動も大きいとします。もう片面は温度が低くて分子の振動も小さいとします。

高濃度側から低濃度側に溶質が移動するのと同じで、分子の振動も移動します。

表裏での分子の振動の差がdC/dx、単位時間に移動する振動の量をJとしたときのDが、「熱拡散率」に相当します。

Fickの法則のDの単位もm2/sなので、しっくりくるかと思います。

分子の振動が移動する速さを決める物性が熱拡散率というわけです。

熱伝導率は、「分子の振動」ではなく「エネルギー」の移動に関する物性です。

したがって、「分子の振動」に、「分子を振動させるのに必要なエネルギー」をかけ算して「エネルギー」に換算する必要があります。

この、「分子を振動させるのに必要なエネルギー」が比熱です。ただし、比熱は単位重量あたりの物性なので、単位体積あたりのパラメータに変換するため、密度を別途かけ算しているわけです。

熱伝達率とは

物体の表裏に温度差がある場合の熱エネルギー、分子振動の伝わりやすさが、それぞれ熱伝導率、熱拡散率だと説明しました。

熱伝達率は、物体の中の話ではなくて、物体と、物体に接触している流体との間での熱エネルギーの伝わりやすさです。

単位はW/m2・Kです。物体と流体の接触界面の単位面積あたり、かつ物体と流体の単位温度差あたりの熱エネルギーの移動量を示しています。

これは難しい話ではなくて、「90℃のサウナに入るのは大丈夫だけれど、90℃のお湯には入れないのはなぜか?」を考えると合点がいきます。

蒸気よりもお湯の方が熱伝達率が高かったということです。

また、同じ90℃のサウナでも、うちわで扇がれると暑くなります。流体が強制的に対流され、熱伝達率が上がったからです。

逆に、裸で寒空に放り出された場合も同じです。同じ0℃でも、氷水の中に浸かるよりは寒空の方がましです。そして、同じ寒空でも、風が吹くと寒くなります。

体感温度というのは、実際の環境温度に熱伝達率の大小が加味された温度だと言えます。