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樹脂・ゴムに配合するカーボンブラックの選び方

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「カーボンブラック」。いろいろな材料に使われています。よく知られているのが、導電性付与剤、ゴムの補強剤、着色剤としての使い方です。

そして、カーボンブラックの種類も多岐にわたり、目的に応じて品種を選定する必要があります。それなりの知識が必要です。

ここでは、カーボンブラックの種類と選び方について、初心者にも分かるように解説します。

カーボンブラックの形状

カーボンブラックは単なる粒ではありません。球状のカーボン粒が”ブドウ”のように連なった格好をしています。カーボン粒とカーボン粒はわりと頑丈にくっついています。カーボン粒の直径を「粒子径」、連なった長さを「ストラクチャー」といいます。

カーボンブラックの特徴は、「粒子径」と「ストラクチャーの長さ」でおおよそ決まります。よって、カーボンブラックの種類を選ぶときはこの2つの物性に着目して下さい。

粒子径

カーボンブラックの粒子径は、「ヨウ素吸着量」、または「窒素吸着比表面積」というパラメータで把握できます。これらの数値が大きいほど、粒子径が小さいという意味です。

カーボン粒の粒子径がちっちゃくなると、カーボン粒の表面積が大きくなりますよね。そうすると、ヨウ素やら窒素ガスにさらすと、それらがよりたくさん表面に蓄えられます。そうやって「粒子径」を間接的に定量します。

もちろん、粒子径を直接測定した値もあります。

ストラクチャー

カーボンブラックのストラクチャーは、「DBP吸油量」というパラメータで把握できます。この数値が大きいほど、ストラクチャーが大きいという意味です。

DBPというのは油の一種です。カーボンブラックが寄せ集まると、ストラクチャーが長いカーボンブラックほど、密に詰まりにくくなるため、内部に空間ができてスカスカになります。よって、ストラクチャーが長いほど、内部の空間に油がたくさん吸収されます。

カーボンブラックの分類

ASTM分類

カーボンブラックの分類については、ASTMのものが分かりやすいです。ASTMとはアメリカの材料規格です。JISのアメリカ版と言えば分かりやすいと思います。

ASTMの分類では、カーボンブラックの種類を「N○○○」と表現します。Nは単なる頭文字です。○○○に3ケタの数字が入り、一番左には粒子径に応じた番号が入ります。例えば、粒子径が26~30nmだったら「3」、201~500nmだったら「9」がつきます。ここの数字が大きいほど、粒子径がデカいと思って下さい。

残りの2ケタは、ストラクチャーなどの違いに応じた便宜上の数値です。

よく耳にするのは、N330、N550、N990あたりですね。

ASTMの分類とは別で、昔からの呼称というものもあります。例えばN330なら「HAF」、N550なら「FEF」、N990なら「MT」といった具合です。この3つはよく耳にするので覚えておいて損はありません。

ちなみに、HAFはHigh Abrasion Furnace、FEFはFast Extruding Furnace、MTはMedium Thermalの略です。

カーボンブラックの作りかたの違いも知っておこう

ほとんどのカーボンブラックは「ファーネス法」と呼ばれる方法で作られます。オイルを不完全燃焼させて炭にする方法です。さきほどFurnaceということばが出てきましたが、まさにこの製造方法のことを指しています。

その他、知っておくべきは以下の3つです。

「サーマル法」・・・オイルではなく、天然ガスを原料に使います。粒子径がデカいN990(MT)はこの方法で作られます。

「アセチレン法」・・・アセチレンガスを原料に使います。アセチレンブラックという、導電性の高いカーボンブラックができます。

「ケッチェンブラック」・・・ファーネス法と基本同じつくりかたのようですが、カーボン粒の内部が空洞になるのが特徴です。このカーボンブラックをケッチェンブラックといいます。

アセチレンブラックとケッチェンブラックは、カーボンがきれいな結晶をつくっているのが特徴です。結晶が発達していると電子が通りやすくなるため、導電性がよくなります。よって、この2種は導電性専用です。ちなみにASTM分類は適用されないようです。

カーボンブラックの選び方:導電性

ここからは、カーボンブラックの選びかたについて解説します。まずは導電性を上げたい場合です。

導電性専用のグレードから選ぶ

基本的には、ストラクチャーの長いカーボンブラックを選ぶのがよいです。導電パスを形成より少ない添加量で導電性を付与できます。

ただし、経験上よく使われるのは結晶が発達している導電性専用のカーボンブラックです。よって、アセチレンブラックかケッチェンブラックの二択だと思います。

最も少量で導電性を出せるのがケッチェンブラックです。粒の中が空洞で軽いため、添加重量で表すとアセチレンブラックより少なくて済む、というのもありますが、中空構造に起因するいろいろな現象も導電性に一役買っているようです。

カーボンブラックを多く添加すると、機械特性や耐衝撃性が悪くなります。したがって、他の物性をできるだけ犠牲にしたくないなら、少量添加で済むケッチェンブラックがよいです。ただし、ケッチェンブラックは樹脂に混ぜにくいというデメリットがあります。物性と混練性のバランスをみてケッチェンブラック or アセチレンブラックを選んでください。

アセチレンブラック、ケッチェンブラックのほかに、Cabot社のVULCAN XCシリーズも導電性が良いです。余裕があれば、3択目として考えてもよいかと思います。

注意点

導電性目的の場合は、混合条件に気を付けて下さい。混練が甘いとカーボンブラックの分散が悪く、パーコレーションの形成が不十分になりますので導電性が出ません。逆に、混練をしすぎると、カーボンブラックのストラクチャーが切れてしまい、導電性が悪くなります。ほどよい混練が必要です。

また、導電性目的の場合はカーボンブラックだけではなく、金属フィラー、黒鉛、カーボン繊維、カーボンナノチューブ(CNT)なども検討の俎上にのせてください。金属が許されるのなら金属フィラーの方が導電性がよいですし、シートの水平方向の導電性がメインなら、黒鉛も使えます。ケッチェンブラックよりもさらに少量で導電性をだすならCNTがよいです。ただし、高価ゆえコストアップします。

カーボンブラックの選び方:ゴムの補強

タイヤに代表されるように、カーボンブラックはゴムの補強剤として広く使われています。カーボンブラックの使用量の9割はゴム用です。そして、ゴム用のほとんどはダイヤ向けと言われています。

ゴムにカーボンブラックを入れることで、機械強度や伸び、耐摩耗性がよくなります。カーボンブラックとゴムが強く相互作用することが主な理由です。

以下、ほしい物性ごとに選定ポイントを挙げます。ゴム用の場合、基本的には粒子径、ストラクチャーをよく見て選びましょう。

とはいえ、よく使われているカーボンブラックというのはだいたい決まっていますので、汎用の品種から選ぶのが無難かと思います。よく使われている品種は、HAF(N330)、FEF(N550)、ISAF(N220)あたりです。

引張強さを上げる

粒子径の小さいカーボンブラックがいいです。カーボンブラックの比表面積が大きいほど、ゴムと相互作用できる面積が増えるからです。

ただし、粒子径が小さすぎると、カーボンブラック同士の凝集がひどくなり、分散させるのが難しくなります。凝集が残ると、引張強さが悪くなりますので要注意です。

伸びを大きくする

ストラクチャーの短いカーボンブラックがよいです。ストラクチャーが長いと、カーボンブラックが寄せ集まったときにできる内部空間が広くなります。ここにゴムが入るとゴム分子の動きが拘束されるため、変形に対してゴム分子がスムーズに動けなくなります。よって伸びが下がります。

粒子径にも注意が必要です。粒子径が小さすぎると、カーボンブラックが凝集して、破断の起点になります。そうなると伸びが下がります。また、たとえうまく分散できたとしても、カーボンブラックの表面に拘束されるゴム分子の割合が増えるため、伸びは下がる傾向になります。

文献などを見ていると、やはりストラクチャーの方が伸びに大きく影響するようです。

耐摩耗性を上げる

粒子径の小さいカーボンブラックがいいです。理由は、引張強さのときと同じです。

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硬さ、ムーニー粘度

ストラクチャーが長いほど、粒子径が小さいほど、高くなります。ゴム分子の動きが拘束されるからです。

分散のしやすさ

ストラクチャーが長いほど、粒子径が大きいほど、分散しやすくなります。カーボンブラックの凝集が残るリスクが減るため、生産管理がしやすくなります。

ストラクチャーが長いと、その嵩高さからカーボンブラック同士の接近が妨げられ、凝集しにくくなります。

粒子径が大きいほど、カーボンブラック同士が相互作用できる面積が減り、凝集しにくくなります。

絶縁性を落としたくないとき

粒子径がデカいN990(MT)一択だと思います。ほとんどのカーボンブラックの粒子径が数十nmであるのに対し、N990は280nmと1ケタ大きいです。また、ほとんどが粒1個でできているイメージで、あまり”ブドウ”にはなっていません。よって、導電パスを作りにくいため絶縁性が落ちにくいです。

カーボンブラックの選び方:着色

粒子径が小さいカーボンブラックがよいです。カーボンブラック自体、可視光の波長領域をあまねく吸収する材料です。粒子径が小さいほど、可視光を吸収する面積が増えるため、着色力が強くなります。

カーボンブラックの選び方:耐候性

カーボンブラックは紫外光領域の波長も吸収するため、耐候性を付与できます。一般的には着色力と同様、粒子径の小さいカーボンブラックの方がより少量で耐候性を付与できます。

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