ゴムの加硫曲線とは、ゴムが架橋していくさまをグラフに表したものです。装置の名前にちなんで、レオメーターカーブ、キュラストメータカーブと呼ぶこともあります。
グラフの横軸は時間、縦軸はトルクです。架橋が形成されるにつれてトルクが上昇し、やがて飽和します。
そのゴムを何°C×何分で加硫したかよいのか、どちらのゴムが早く加硫するかなどを定量的に測ることができます。ゴムには欠かせない評価です。
測定方法
未加硫状態のゴムの個片を、測定装置の測定部に置きます。測定部は設定した温度に制御されています。
置いたら、ダイを下ろして密閉します。ゴムがオーバーフローすることで、測定部の内部がゴムで充塡されます。
上のダイが少しだけ回っては戻る、を繰り返し、ゴムをせん断方向に動かします。この時にかかるトルクを検出し、加硫曲線を描きます。
加硫曲線の見方
ここでは、設定温度=160°Cとします。
はじめはゴムが室温から160°Cまで温められて粘度が下がるため、トルクも下がります。やがて加硫が進行して、トルクが上昇していきます。加硫反応が終わると、トルクが飽和して横ばいになります。
トルクが底値を示すところが加硫していないゴムの160℃における粘度、トルクが最大となるところが加硫したゴムの粘度です。
t10:スコーチしやすさの指標
この2つのトルクの差を100%とします。トルクの値が底値+10%に上がった時の時間がt10です。加硫が1割進む時間、という意味です。ゴムのスコーチしやすさ(焼けやすさ)の指標になります。t10が長いほど、スコーチしにくいゴムです。スコーチタイムと似た指標です。
t19:最適加硫時間
トルクの値が、底値+90%になる時間がt90です。加硫が9割進む時間、という意味です。最適な加硫時間の目安になります。t90が短いと、早く加硫するので短時間で成形できる、つまり加工費を安く抑えられます。
なぜt100でなくてt90が最適な加硫時間なのでしょうか?おそらくですが、加硫進行の余地を少し残しておくことで、ゴムの熱老化性や耐久性を増すことができるからと考えています。
t100を初期状態とすると、あとは架橋や分子鎖が切れて軟化劣化したり、あるいは酸素が関与したうれしくない架橋が進んで硬化劣化するのみです。軟化劣化/硬化劣化とは、劣化によりそれぞれ高硬度化/低硬度化する現象のことで、ゴムによってどちらが優勢になるかが変わります。
一方、t90を初期状態とすると、その後熱履歴が加わると、t100の状態になってから劣化に転じるため、寿命が少し延びます。1割分残っていた未加硫部の加硫に熱が使われるため、劣化するまでの時間稼ぎができる、といった方がイメージがつかみやすいかもしれません。「カエル」スタートではなく、「手足が生えたおたまじゃくし」スタートにしましょう、ということです。
また、熱老化性の評価では、初期の物性を100として相対値を出す場合がよくあります。したがって、t90を初期状態にした方が、見た目の物性の下がり具合が小さくなるメリットもあります…。
こんな加硫曲線が喜ばれる
一般的には、t10が長くてt90の短いゴムが喜ばれます。つまり、上の加硫曲線のように、加硫の初期はトルクが低いままですが、どこかでシャープに立ち上がるゴムのことです。このような加硫曲線を示すゴムは、金型内にゴムが行き渡る間に加硫が進む事態を避けつつ、短時間で加硫を完了することができます。
注意すべきは、厚いゴムを加硫する場合です。ゴムが厚いと内部まで熱が伝わるのに時間がかかりますので、ゴムの表層と内部で加硫の進行度に差がでます。t90で加硫しても内部はあまり加硫が進んでない、という事態に陥ります。よって、次の加硫曲線のように、ゆっくり加硫が進むゴムの方がよいと思います。
加硫戻りとは
さらに加熱を続けると、ゴムによっては熱劣化により架橋や分子鎖が切れてトルクが徐々に下がっていきます。この現象を加硫戻りと言います。明らかに加熱しすぎな領域と言えます。
最初に示した加硫曲線を再掲します。加硫時間が15~20分あたりを超えてからは、トルクが徐々に低下しているのが分かります。これが加硫戻りです。
試験時間が短い場合
加硫曲線が飽和する前に試験が終わるケースがあります。
例えば、試験時間は60分なのですが、加硫曲線が完全に飽和するのに90分かかるゴムがあったとします。この場合は、試験時間60分の中で最大となるトルク値を使ってt10やt90を計算します。したがって、実際のt10、t90より短く見積もられてしまいます。これは試験時間のリソース上やむを得ないです。
本来のゴムの実力を見たいなら、試験時間を長くとってやる必要があります。低温で加硫曲線を測定したり、加硫の遅いゴムの加硫曲線を取得する場合は、試験時間に注意が必要です。