スマホやパソコンといった電子機器から、LEDや太陽電池、はたまた車や新幹線のパワーエレクトロニクスまで、さまざまなところで半導体が使われています。
しかしながら、半導体というのはぼやっとしていてつかみどころがない、分野外の人にとっては理解しにくい材料です。私も半導体を理解できなかった一人です。
そこで、半導体の役割や機構についてイメージをつかめるよう以下まとめました。
半導体を使ううれしさ4つ
はじめに、なぜこんなに半導体が使われているかの説明です。
理由は明快で、半導体がいろいろな性能を発現するからです。まとめるとこんな感じです。
うれしさ | 用途 | |
1 | 光を電気に変換できる | 太陽電池 |
2 | 電気を光に変換できる | LED、有機EL、レーザー |
3 | 電気の流れを一方通行にできる | ダイオード(整流器)、コンバータ(交流→直流 変換) |
4 | 電気のオン、オフの切り替えができる | トランジスタ(スイッチング)、インバータ(直流→交流 変換) |
4の「電気の流れのオン、オフの切り替えができる」のところは少し補足しておきます。
電気のオン、オフを高速に行うことで、デジタル情報の0, 1を表現することができます。要は、デジタル化する素子になるわけです。これがトランジスタです。
情報を記憶するメモリ、演算処理をするCPUなどに適用されています。デジタル機器には欠かせないものです。
それから、直流の電気のオン、オフを繰り返すことでカクカクした波(矩形波)の電流を作り出し、模擬的に交流電流を再現するインバータにも使われます。
インバータとは、直流を交流に変換する機器のことです。コンバータの逆ですね。
なお、電気の流れのオン、オフの切り替えのことをスイッチングといいます。
半導体の”効能”を知っておくだけでも全然違う
このように、半導体は電気製品、電子機器に欠かせない材料であることがわかります。
世の中、どんどんデジタル化が進んでいているため、半導体の需要も大幅に拡大しています。
半導体と聞くとイメージが湧きにくいです。いきなり導体や絶縁体との違いから入ると、半導体という概念をつかみにくいと思います。
したがって、上に書いたように、まずは半導体の効能、というか半導体ができることを知って、その性質を生かしてどんな使われ方をしているかをざっくり頭に入れておく方がオススメです。
そして、それを知ってから、半導体の動作メカニズムの学習に入った方が頭に入ってきやすいかと思います。
以下、半導体の説明です。
半導体とは
専門用語を使わずに、2本の高速道路(ハイウェイ)で例えて説明します。
上下に2つのハイウェイが並走しているとします。下のハイウェイは上のハイウェイよりも高速料金が安いので、車たちは下のハイウェイから詰まっていきます。
そして、下のハイウェイは車が密に完全に詰まっている状態で、上のハイウェイは車が全くいない状態になりました。
これが物質の通常の状態です。車=電子、下のハイウェイ=価電子帯、上のハイウェイ=伝導帯に対応します。
金属の場合
金属の場合、2つのハイウェイは隔てられていません。
したがって、下のハイウェイにいる電子たちは、空いている上のハイウェイに簡単に移動することができます。
ハイウェイに電圧をかけて電子たちが走るようにけしかけると、電子たちは上のハイウェイをすいすいと走行し始めます。これがまさに電気が流れるという現象です。
絶縁体の場合
絶縁体の場合、2つのハイウェイは大きく隔てられています。下のハイウェイにいる電子が上のハイウェイに移動するには、大きくジャンプしなければいけません。
ジャンプには、隔てられた距離の分だけエネルギーが必要です。絶縁体は2つのハイウェイの間隔が広すぎるため、ちょっとやそっとのエネルギーでは電子たちは上のハイウェイに移動できません。
この状態で電圧をかけても電気は流れません。下のハイウェイは完全に詰まって渋滞しているため、電子が進めないからです。上のハイウェイにはそもそも電子がいませんし。
したがって、基本的に絶縁体には電気が流れません。
半導体の場合
半導体の場合、2つのハイウェイは少しだけ離れています。
下のハイウェイにいる電子が上のハイウェイに移動するには、ちょっとだけエネルギーが必要です。
どれくらいのエネルギーかというと、可視光(400〜800nm)あたりや近赤外線(800nm~)といった、身の回りにある普通の光でまかなえるレベルです。
したがって、ハイウェイ間の距離にもよりますが、可視光や近赤外線を当てることで下のハイウェイにいる電子たちを上のハイウェイにジャンプさせることができます。
光エネルギー⇄電気エネルギー
半導体がもつ、上下のハイウェイのギャップを利用したものが光と電気の変換です。
冒頭でも説明した通り、光から電気への変換例が太陽電池で、電気から光への変換例がLED、有機EL、レーザーといったものになります。
光エネルギー→電気エネルギー:太陽電池
半導体は可視光や近赤外線を電気に変えることができるため、太陽電池を構成する根幹材料となっています。
半導体に太陽光が当たると、半導体の下のハイウェイから上のハイウェイに電子が移動します。
この状態で電圧をかけると、下のハイウェイでは渋滞が緩和しているため電子が走り、上のハイウェイではジャンプ移動した電子たちがスイスイと走ります。
半導体に電極をつけて、走る電子たちを配線に誘導すれば、電気を取り出せることができます。
電気エネルギー→光エネルギー:LEDなど
電極から半導体の上のハイウェイに電子を流し込み、下のハイウェイから電子を電極へ流し出すと、上のハイウェイを走る電子が下のハイウェイの空きスペースに落下します。
落下したときに、ハイウェイ間の距離に合った光エネルギーを放出します。可視光だったり近赤外線だったりします。
これがLEDです。有機材料でできたLEDは有機ELとかOLEDと呼ばれます。ハイウェイ間の距離に応じて様々な色の光が得られます。
また、レーザーもこの仕組みです。レーザーはLEDとは異なり。放出する光の波長がとてもシャープで、かつ光が直進します。細かい話はここではしません。
半導体はドープという処理をしたものを使う
実は通常、半導体はドープという処理をしたものを使用します。
ドープとは
ドープとは、少量の不純物を入れることです。
少量の不純物を入れることで、不純物から半導体の上のハイウェイに電子を差し出すことができます。これはn型半導体と呼ばれます。
逆に、少量の不純物を入れることで、半導体の下のハイウェイから不純物に電子を出すこともできます。そして、完全に詰まっていた下のハイウェイに隙間ができます。これをp型半導体と言います。
n型になるかp型になるかは、不純物の種類により決まります。
ちなみに、ドープしていない半導体を真性半導体と呼びます。
厳密にいうと、真性半導体の上のハイウェイにも少量の電子が、あるいは下のハイウェイに少量の隙間が存在しています。その量は、ドープした場合のx10-10、つまり100億分の1らしいので、ほぼ無いに等しいです。
ドープした半導体のいいところ
ドープした半導体のいいところは、半導体の中でたくさんの電子を走らせるようになることです。
真性半導体だと、上をハイウェイを走れる電子が少なく、下のハイウェイも電子がぎゅうぎゅうすぎて電子が走りにくいです。
電池をつないで、外から大量の電子を流し込めばいいじゃん、と思うかもしれませんが、それは無理です。
半導体のハイウェイに電子を1個流し込むには、半導体のハイウェイ上にいる電子を1個流し出さないといけません。
半導体のハイウェイに電子を100個流し込むには、半導体にハイウェイ上に電子が100個いなければいけません。
だから、ハイウェイ上の電子が少ない真性半導体には大量の電子を流し込めません。
半導体の中でたくさんの電子を走らせるようにするには、ドープをすることで初期状態でハイウェイに存在する電子の数、または隙間の数を増やす必要があります。
p型とn型を組みあわせるとうれしいことがある
p型半導体とは、下のハイウェイの電子が引き抜かれて、隙間ができた状態だと説明しました。要は、渋滞が緩和された状態です。
n型半導体とは、上のハイウェイに電子が注入された状態だと説明しました。
この2種を組み合わせるといろいろとうれしいことがあります。
p型とn型を接合すると、上、下両方のハイウェイにおいて、電子が走行可能な状態が実現します。
さらに、p型とn型を接合することで、p型半導体のハイウェイがn型半導体のハイウェイよりも相対的に高い位置にきた状態でつながります。
その結果、p型半導体のハイウェイからn型半導体のハイウェイにつながる下り坂ができます。なぜこうなるかはとりあえず置いておいて、今はこうなるもんだと思っておいていただければと思います。
ここでもう一度、光エネルギー⇄電気エネルギーの変換の話に戻ります。
再び、光エネルギー⇄電気エネルギーの話
光エネルギー→電気エネルギー:太陽電池
太陽電池も、p型とn型を接合したものです。
p型、n型接合体に光が当たると、下のハイウェイから上のハイウェイに電子がジャンプします。
ハイウェイには坂道がついていますので、ジャンプした電子はp型側に下り、下のハイウェイに生じた隙間はn型側に移動します。
ここがミソです。つまり、坂道があるおかげで、電子と隙間がすぐさま両サイドに移動し、お互いが離れてくれます。よって、電子が再び下に落ちることはありません。
もし坂道がないと、ジャンプした電子はそのまま光を出しながら下のハイウェイに戻っちゃうでしょう。
このように、電子(マイナス)と隙間(プラス)が物理的に離れてくれることを電荷分離と呼びます。電荷分離状態にすることは、太陽電池の機能を実現するために必須です。
ひとたび電荷分離状態を形成できれば、あとは電極とつないだ配線を通じて電気として取り出すことができます。
電気エネルギー→光エネルギー:LEDなど
LEDも、p型とn型を接合したものです。
p型、n型接合体に電気を通すと、上下ハイウェイともに、新しく電子が流れ込み、もともといた電子が押し出されていく形で電子が流れます。
そして、上のハイウェイを走る電子が接合部の坂道に差し掛かると、下のハイウェイにピューっと落下し、光を放出します。
これがLEDの発光原理です。
窒化ガリウム(GaN)を使った青色発色ダイオードは、赤﨑教授、天野教授、中村教授のノーベル賞受賞であまりにも有名ですね。
ようやく、一方通行(整流)とon-off(スイッチング)の話へ
いよいよ、ダイオードやトランジスタの話に入ります。
冒頭の「半導体のうれしさ」で言うところの、3)電気の流れを一方通行にできる、4)電気の流れのon, offの切り替えができる、です。
p型とn型をくっつけると一方通行のハイウェイができる:整流
例えば、p型とn型を接合すると、「一方通行」のハイウェイができます。
このように坂道ができると、ハイウェイに電圧をかけて電子を走らせる場合、p型からn型の方向であれば下り坂なので電子がスムーズに動いて電気が流れます。一方で、n型からp型の方向には流れません。上り坂だからです。
こうやって一方通行のハイウェイができあがります。これが整流という現象です。
交流を直流に変換するのに使うことができます。
整流作用をもつ素子をダイオードといいます。
整流する機器をコンバータと呼んだりします。
余談ですが、大きな電圧をかけると、n型からp型の方向にも電流が流れるようになります。上り坂を登れるようになるからです。降伏現象といいます。
整流用のダイオードになるか、光るダイオード(LED)になるかの違い
整流用のダイオードがLEDと異なるのは、坂道のところで上の電子が下に落下しないことです。これは材質の違いによるもので、シリコンではこの「落下」はほとんど起きませんが、前述の窒化ガリウムですと「落下」が起きます。
詳しくは説明しませんが、シリコンのような「間接遷移型半導体」はLEDになりません。「間接遷移型半導体」は上下のハイウェイを直接行き来できない半導体だからです。一方、窒化ガリウムのような「直接遷移型半導体」はLEDになり得ます。
太陽電池の場合
「ん?じゃあなんで太陽電池にはシリコンが使われてるの?シリコンは間接遷移型半導体だから太陽電池にはなり得ないんじゃないの?」と思った方、しごくまっとうな反応です。
たしかに、シリコンは光の吸収が弱いです。しかしながら、シリコンの厚みを増すことで吸収の低さを十分補えます。これが理由です。ガリウムヒ素(GaAs)のような直接遷移型半導体であれば薄くてもいけます。
とはいえ、化合物半導体はシリコンに比べると高いようです。半導体の9割以上はシリコンが使われていることからも頷けます。
次はトランジスタ、CPU、メモリ
次の記事では、デジタル時代に欠かせないトランジスタの説明をします。CPUやメモリに使われている素子です。