樹脂と金属の複合体、特に樹脂と銅の複合体において「金属不活性化剤(銅害防止剤)」は重要な添加剤です。
銅と言えば、電気を流す導体です。電子基板や電線などに使われる樹脂は銅により劣化が促進される恐れがあるため、場合によっては金属不活性化剤を添加します。
そもそも、金属不活性化剤とはどういうものでしょうか?
銅害とは?
銅害とは、樹脂中に拡散した銅イオンにより樹脂の酸化劣化が促進される現象のことです。
銅に限らず、さまざまな金属元素において同様の現象が見られます。
こちらの文献によると、銅害を起こしやすい金属元素は次のような順となっています。
【銅害が起こりやすい】Co>Mn>Cu>Fe>V 。。。。 【銅害が起こりにくい】
より身近な金属元素がCuということで、”銅害”と言われているようです。
一般的な酸化劣化のメカニズム
まず酸化とは、高校の教科書的に説明すると、酸素原子がくっつくことであり、
水素原子が失われることでもあります。
したがって、樹脂の分子鎖のHが引き抜かれてラジカル化する反応は「酸化」です。
一般に樹脂の酸化は、熱や紫外線で分子鎖のHが引き抜かれ、ラジカルが生じるところから始まります。
このラジカルが分子鎖の架橋や切断を引き起こし、樹脂がどんどん劣化していきます。
ラジカルの一部は酸素分子と反応し、-O-O・のパーオキサイドになります。
これが分子鎖の他のHを引き抜いてラジカルを発生させる上に、-O-O-Hとなったパーオキサイドが-O・と・O-Hに分離し、こいつらが新たに分子鎖のHを引っこ抜いていきます。まさにネズミ講式にラジカルを発生させていきます。
このループを断ち切るために使われるのが、ラジカルを食ってくれる酸化防止剤(老化防止剤)です。
そして、ラジカルをネズミ講式に増やすパーオキサイドを食ってくれるのが2次酸化防止剤(2次老化防止剤)と呼ばれるものです。
その他、紫外線によるラジカル化から守ってくれる紫外線吸収剤などがあります。
金属イオンが酸化劣化を促進するワケ
Cuイオンのような金属イオンが存在するとどうなるのでしょうか?
Cuイオンが存在すると、Cuイオンが樹脂を酸化してラジカルを生じさせます。
先ほどのメカニズムでいうところの熱や紫外線と同じ作用をしています。
では、金属不活性化剤(銅害防止剤)とはどんなものか?
金属不活性化剤とは名前の通り、金属イオンの活性を落とす添加剤です。
その正体は、アミンやカルボン酸といった、金属イオンに配位できる官能基を複数持つ配位子です。
金属イオンを覆う形でキレート錯体を形成し、金属イオンと樹脂との接触を妨げてくれます。
よく使われるものに、サリチル酸(HO-Ph-COOH)とアミンのエステル化合物、ヒドラジン(H2N-NH2)とカルボン酸のエステル化合物、シュウ酸(HOOC-COOH)とアミンのエステル化合物があります。
サリチル酸系だとアデカスタブCDA-1、ヒドラジン系だとイルガノックスMD1024、シュウ酸系だとナウガードXL-1があたりがオーソドックスかと思います。
金属不活性化剤を使うときは、酸化防止剤の併用が必須
当たり前ですが、酸化防止剤の併用は必須です。
先ほどの酸化劣化のループを考えると分かるかと思います。
金属不活性化剤だけ入れても十分な酸化劣化抑止効果は得られません。
金属不活性化剤を使う際の注意事項
金属不活性化剤は概して融点が高いもの(たとえば200℃以上)が多く、混合時の分散性が良くないというデメリットがあります。
金属不活性化剤の融点以下で混合する場合は、金属不活性化剤の分散性に注意が必要です。