四大公害とは、高度経済成長期に発生した痛ましい事故です。
言わずもがなですが、四大公害とは、水俣病・新潟水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそくのことです。
学校の授業では、四大公害の発生場所と原因物質は覚えておくように言われますが、その原因物質がなぜ生成されていたのかについては習わないかと思います。
ここでは、「四大公害の原因となった化学物質は、どのような工業目的から生じたのだろうか?」についてまとめました。
水俣病、新潟水俣病
水俣病
水俣病は、熊本県水俣市で発生した公害病です。日本窒素肥料株式会社という会社が排出した有機水銀が原因でした。
チッソ株式会社と聞いてもピンとこないかもしれませんが、ルーツは戦前に存在した財閥;日窒コンツェルンの中心企業で、その後、チッソ株式会社という名前に変わり、現在はチッソ株式会社の化学事業がJNC株式会社という会社に譲渡されています。
この会社から派生してできた化学メーカーに、旭化成や信越化学、積水化学といった名だたる企業があります。
ちなみに、チッソ株式会社の歴代社長である江頭氏は、皇后雅子さまのお祖父さんにあたります。
原因物質である有機水銀が生成された理由
当時、酢酸や酢酸誘導体(酢酸エチル、酢酸ビニルなど)といった工業的に有用な化学品はアセチレンから作られていました。
まず、酸化カルシウム(CaO)とコークス(C)を高温で加熱して生成したカーバイド(CaC2)は、水と反応してアセチレンになります。
このアセチレンに水と反応させると、アセトアルデヒド(CH3CHO)が生成します。
アセドアルデヒドはさらに酸化されて酢酸、あるいは酢酸誘導体に変換されます。
水俣病の原因物質である有機水銀は、アセチレンからアセトアルデヒドを製造する工程で生成しました。
この反応で使っていた触媒は硫酸水銀(HgSO4)でした。副反応で有機水銀が生じ、廃液として河川に排出されました。
水銀のモノメチルカチオン [CH3Hg]+
水俣病の原因となった有機水銀とは、水銀にメチル基がついたメチル水銀、中でもメチル基が1個くっついた水銀のカチオン([CH3Hg]+)とされています。
河川に排出時は大量の川の水で希釈されるも、[CH3Hg]+の生体蓄積性ゆえ生物濃縮され、人体に影響をおよぼすレベルにまで至ったということです。
そもそも、この製法自体は戦前から使われていたもので、他の会社でも普通に採用されていたものです。きっと、何かしらの変化点があったのでしょう。管理基準を設けること、変化点の管理の重要性を感じます。
当時、廃液をほぼ未処理で排水していた点でもうアウトですが、そのほか、触媒の活性維持のために使う添加剤を変更したことや、アセトアルデヒドの生産量が増えて廃液量も増えたという背景もあったようです。
現在では、アセチレンではなくエチレンからアセドアルデヒドが合成されています。具体的には、塩化パラジウムと塩化銅を触媒にしてエチレンを酸化させる方法で、ワッカー酸化と呼ばれます。
新潟水俣病
新潟水俣病は新潟県の阿賀野川流域で起きました。阿賀野川といえば、新潟市に流れている大きな川です。
新潟水俣病は、阿賀野川の上流にあった昭和電工の工場から排出された有機水銀が原因でした。水俣病と同じです。
イタイイタイ病
イタイイタイ病は富山県の神通川流域で起きました。神通川は、富山市に流れている大きな川です。
イタイイタイ病は、神通川の上流にあった神岡鉱山から排出されたカドミウムが原因でした。三井金属鉱業の神岡事業所です。富山県と岐阜県の県境付近にあります。
神岡鉱山は既に閉山になっていますが、跡地を利用してニュートリノ観測をするカミオカンデが作られたのは有名な話です。今では、スーパーカミオカンデが新しくできているため、カミオカンデは解体されています。
原因物質であるカドミウムが生成された理由
神岡鉱山では鉱石を100-200μmサイズに粉砕して、亜鉛や鉛を取り出していました。鉱石にはカドミウムも少量存在し、亜鉛や鉛を選別したあとの粉砕石に多く含まれていました。これが川に排出され、カドミウムイオンとして水に溶け出しました。戦前まではカドミウムは工業生産されず、そのまま捨てられていました。
カドミウムのイオン化傾向は、FeとNiにきます。Feイオンは温泉の成分として知られているくらいですので、カドミウムが比較的イオン化して水中に溶け出すイメージはつくかと思います。
カドミウムイオンを含む水を飲んだり、稲に蓄積されてそのお米を食べることでカドミウムが体内に摂取され、イタイイタイ病につながりました。
イタイイタイ病は戦後の高度経済成長期だけの話ではなく、大正時代から発生していましたものです。
三井が神岡鉱山での採掘を本格的に始めた明治時代からずっとカドミウムが放出されていたということです。
大正当時は原因がわからず、地域特有の風土病とされ、患者やその家族はひどい差別を受けていたようです。
四日市ぜんそく
四日市ぜんそくは、三重県の四日市周辺で起きた大気汚染による公害です。
四日市ぜんそくを引き起こした主な原因物質は、四日市の石油化学コンビナートから排出されたSO2(二酸化硫黄)でした。亜硫酸ガスともいいます。
たSO3(三酸化硫黄)、別名硫酸ガスなども含めて硫黄酸化物SOxでくくられることもあります。
前述の公害とは異なり、四日市ぜんそくの加害企業は四日市コンビナート内の複数の企業(三菱系など)でした。
なぜSOxが発生したのか?
SOxは、石油中の硫黄分が燃焼により酸化されて発生しました。
硫黄分とは、遊離硫黄と呼ばれる、硫黄原子が幾つか連なったもの(Sn)、硫化水素(H2S)、アルキルチオール(R-SH)、ジアルキルスルフィド(R-S-R’)、チオフェン化合物などです。
当時は脱硫の技術がなく、原因となる硫黄分を十分除去できていませんでした。
また、硫黄分の多い石油を使っていたことも原因でした。
結局、煙突を高くしてSOxの大気中への拡散を抑えたり、SOxを吸収する排煙脱硫装置を煙突につけたり、硫黄分の少ない石油に切り替えることで改善していきました。
ちなみに、SOxの吸収には炭酸カルシウムや石灰(酸化カルシウム、水酸化カルシウム)などが使われます。
現在では、もともと石油に含まれる硫黄分を除去する脱硫技術により、石油の硫黄分はほぼゼロになっているようです。