技術者の基礎知識

OLED(有機EL)の発光材料の開発変遷 蛍光→リン光→TADFへ

有機ELのELとはElectroluminescenceのことで、電圧をかけると発光する現象のことをいいます。この現象を起こすものがLED(発光ダイオード)です。

有機ELの場合、有機材料からなるLEDということでOLED(Organic light-emitting diode)と呼ばれます。

OLEDに用いられる有機発光材料は、数十年も前から開発がなされてきました。

開発の変遷を簡単にまとめると、「蛍光材料」がメインの第一世代、「リン光材料」がメインの第二世代、「熱活性化遅延蛍光材料TADF(thermally activated delayed fluorescence)」の第三世代となります。

蛍光とりん光

電圧をかけていなければ、デバイスの発光材料は普通の安定した状態になっています。この状態を基底状態といいます。基底状態では電子対のスピンの向きが反平行になっており、一重項基底状態とも呼ばれます。

デバイスに電圧をかけると、発光材料にエネルギーが与えられ、25%は一重項励起状態(シングレット)、75%は三重項励起状態(トリプレット)という不安定な状態になります。この比率は理論的に決まっているものです。

一重項励起状態であれば、そのまますぐエネルギーを吐き出して一重項基底状態に戻ります。一方、三重項励起状態は電子対のスピンの向きが平行になっているため、そのままではスピンの向きが反平行の一重項基底状態に戻れません(スピン禁制則)。

したがって、三重項励起状態ではスピンの向きを反平行に戻しながらじわーっと一重項基底状態に戻ります。ゆっくりエネルギーを吐き出していくイメージです。

吐き出されるエネルギーは、光だったり熱だったりとさまざまです。有機ELでは、光エネルギーを放出する材料が使われます。

一重項励起状態から一重項基底状態に戻るときに放出される光エネルギーが「蛍光」、三重項励起状態から一重項基底状態に戻るときに放出される光エネルギーが「りん光」です。

「蛍光材料」がメインの第一世代

こちらは蛍光を使って光を取り出しますので、どんなに頑張っても、加えた電気エネルギーのうち最大25%しか光として取り出せません。

残りの75%(三重項励起状態)は、ほぼほぼ熱エネルギーとして放出されてしまいます。このように、光ではなく熱のような格好でエネルギーを失うことを無輻射失活といいます。

「リン光材料」がメインの第二世代

りん光を使って光を取り出します。通常、三重項励起状態から一重項基底状態に戻る場合はほとんどが熱として放出されてしまうのですが、イリジウム(Ir)のような遷移金属を用いた金属錯体だと、光(りん光)として取り出すことができます。

イリジウムのように原子番号が大きいものは、スピンの向きが反転しやすくなります。したがって、三重項励起状態から一重項基底状態への戻りがスムーズになり、熱的に失活する前に光としてエネルギーを取り出すことができます。

また、スピンの向きが反転しやすくなる結果、一重項励起状態のものも三重項励起状態に変化するようになります。この結果、一重項励起状態のものも三重項励起状態になり、りん光として放出されるようになり、ほぼ100%、光エネルギーとして取り出せるようになります

このように、原子番号が大きい元素を含むとスピン反転が起きやすくなる現象を重原子効果と言います。そして、一重項励起状態が三重項励起状態に変わることを項間交差と言います。

「熱活性化遅延蛍光材料TADF」の第三世代

第二世代のリン光材料では貴金属であるイリジウムが使われていました。稀少ゆえコストが高い、供給安定性に乏しいといった課題がありました。

第三世代の「熱活性化遅延蛍光材料TADF」は貴金属を含まないため、低コストで資源的にも有利です。

TADFとは、第二世代とは逆の流れになります。つまり、三重項励起状態を一重項励起状態に変えて、蛍光として光を取り出すものです。三重項励起状態から一重項励起状態への移行がゆっくりなため、遅延蛍光材料と呼ばれます。また、この移行は室温レベルの弱い熱で進行します。熱活性化、と頭についている所以です。当然、効率はほぼ100%です。

ただし、TADF自体は色の純度があまり良くありません。そこで、色の純度がいい蛍光材料を組み合わせて、蛍光材料に励起電子を移して発光させるTAF(TADF assisted fluorescence)が新たに開発されました。文字通り、TADFでアシストした蛍光材料です。

このTAFが、現在の発光材料の主流になっています。

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耐久性はりん光材料より蛍光材料の方がいい

励起状態から基底状態に戻るスピードが遅いと、発光材料の耐久性が低下することが知られています。不安定な励起状態が長く続くためと考えられます。

その点で、第二世代のりん光材料よりも第三世代のTADF、TAFの方が、耐久性に優れる傾向と言えます。

特に、三原色(赤、緑、青)のうち青のOLEDは耐久性が低く、安定な青色OLEDの材料開発が鋭意検討中です。