技術者の基礎知識

同時同量とは?電力の需要と供給にズレが生じると、電気の周波数と電圧が変わる

電気はたくさん溜めておくことができないため、発電した電気はリアルタイムで消費しなければなりません。したがって、発電電力と消費電力は同じになるように調整されています。

例えば、電力の消費が増える夏場は発電する量を増やします。消費電力が少ない季節は、発電する量を減らします。

東日本大震災の時のように原発が止まって発電電力のキャパが減った場合は、消費者側の節電対応や計画停電で消費電力を抑えます。2011年の夏の甲子園は、消費電力のピーク値を下げるために試合の時間帯をずらして対応したことは記憶に新しいかと思います。

発電電力と消費電力をリアルタイムで合わせることを「同時同量」といいます。

もし「同時同量」ができずに電力の需給バランスが崩れたらどうなるのでしょうか?結論からいうと、電気の「周波数」と「電圧」が変化し、電気の質が低下してしまいます。

周波数が変化する

例えば、真夏の昼過ぎに消費電力が増えたとします。発電所のキャパに余裕があれば、動いてないタービンを回すことで対応できます。もし、キャパオーバーだったらどうなるでしょうか?

タービンの数を増やすわけにはいかないため、今動いているタービン1つ1つの回転数を上げることになります。自転車をこぐスピードを上げてライトを明るくするのと同じです。

タービンの回転数が上がると、当然、電気の周波数も上がります。

電気の周波数が変わると、工場の設備がうまく動かなくなったりしますので大問題です。

周波数バラツキの許容範囲は、地域により差はありますが、商用電源周波数(50Hz or 60Hz)に対して±0.2とか±0.3Hzといったところです。

電圧が変化する

同じく、消費電力が大きい真夏の昼過ぎを考えます。タービン1つ1つの回転数が上がると、タービンが回る速度がはやくなります。

すると、フレミングの右手の法則により、電圧が高くなります。

電圧 = 磁束密度 × 導線の長さ × 速度

磁束密度、導線の長さはタービンに固有の数値(定数)です。ゆえに速度は電圧に比例します。

電気の電圧が変わるのも大問題です。日本の100Vに対応したドライヤーをアメリカ(120V)で使ったら、ニクロム線が真っ赤っかになり、壊れやすくなります。電圧が200V以上の欧州だと、きっとショートするでしょう。そうならないように変圧器を使います。

電圧バラツキの許容範囲は、100Vの場合は95~106Vとするよう電気事業法で規定されています。電力を供給する側は、これを維持しなければなりません。

再生可能エネルギーが増えると、同時同量が難しくなる

再生可能エネルギーによる発電が増えています。特に、太陽光発電が急増しています。再生可能エネルギーは値段が高いのがネックでしたが、「発電した電気は全部、電力会社が高く買いましょう」という制度ができたおかげで、再生可能エネルギーによる発電が一気に増えました。

みなさんの中にも、自宅に取り付けた太陽光パネルで発電した電気を売って収入を得ているかもしれません。

この制度はFITといいます。聞いたことがあるかと思います。「固定価格買取制度」ともいいます。

ところが、再生可能エネルギーが増えたおかげで、同時同量がさらに難しくなっています。発電電力が天気や風量で左右され、電力会社側がコントロールできないからです。

九電ショック

九州電力では2014年に再生可能エネルギーの買い取りの申込みが急増したときに、このままじゃヤバいと言って受け入れを保留しました。このままでは、発電電力と消費電力の差が許容されるレベルを超えると考えたからです。これを九電ショックといいます。その後、他の電力会社も受け入れを保留しました。

北海道のブラックアウト

そして、記憶に新しいのが2018年9月の北海道地震により起こったブラックアウト(大規模停電)です。北海道で最大の火力発電所のタービンが地震で故障して動かせなくなったことがきっかけでした。さらに、地震のあとのごたごたで、電力の使用量が増えました。

その結果、消費電力に対して発電電力が足りなくなり、その差が許容範囲を超えてしまいました。そして、保護機能がはたらいて電力のネットワーク(系統)が切断されました。これが停電の顛末です。

北海道のブラックアウトでは電気の周波数が50Hzから45Hz近くまで下がったようです。周波数の管理幅は±0.2とか0.3Hzでした。いかにひどかったことがわかります。

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電力貯蔵システムのニーズが高まる

注目されているのが、電力貯蔵システムです。冒頭で、電気はたくさん溜めておくことができないと言いました。最近、電気をたくさん溜められる技術の検証が進んでいます。もし多量蓄電ができるようになれば、同時同量を維持する必要はなくなります。発電電力と消費電力の差を電力貯蔵システムでカバーできるようになるからです。

揚水発電

現状、実用化されている大型電力貯蔵システムは「揚水発電」です。電気が余っているときは、これを使ってポンプを動かし、大量の水を高いところあるダムへくみ上げます。電気が足りないときは水力発電と同じようにダムの水を放出して発電します。

例えば、宮崎県の小丸川発電所というところの揚水発電は電力が1.2GWです。日本全体の電力は100GWですから、かなりの規模です。

揚水発電の稼働率はかなり上がっているようです。ネックは、揚水発電所を増やしにくいことです。ダム増やしましょう!と言っても様々な利害調整が必要ですから一筋縄にはいきません。

蓄電池

大規模な蓄電池がさかんに検討されています。例えば、東北電力では40MWのリチウムイオン電池の実証試験が進められています。九州電力では50MWのNAS電池の実証試験が進められています。揚水発電の1GWレベルに比べると小さいですが、増設のハードルが低いのがメリットです。

小型の蓄電池も注目されています。ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の蓄電池や、家庭用蓄電池です。1つ1つの電力は小さくても、数が多ければそれなりの規模になるからです。

水素

上記の例は、電気を水の位置エネルギー、電池の化学エネルギーにかえて溜めるものでした。最近では電気を水素にかえて溜めるシステムもさかんに検討されています。余った電気を使って水素を製造し、溜めます。電気が不足したら、水素を燃料電池に供給して発電します。

水素のいいところは、持ち運べることです。揚水発電や蓄電池は溜めたエネルギーの持ち運びができません。エネルギーの持ち運びができると、遠く離れた場所間で起こる電力需給のアンバランスを解消できるようになります。また、長い間溜められる点もメリットです。

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その他

電気を回転エネルギーにかえて溜める「フライホイール」なんかもあります。

まとめ

電力の需給バランスが崩れると、電気の「周波数」と「電圧」が変化し、電気の質が低下してしまいます。

よって、発電電力と消費電力はリアルタイムで合うようにコントロールされています。このことを「同時同量」といいます。

一方、最近は再生可能エネルギーによる発電が増えて「同時同量」の維持がますます難しくなっています。

そこで、電力貯蔵システムが注目されています。電力をたくさん溜められるシステムができれば、「同時同量」をしなくても済むようになります。